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東京家庭裁判所八王子支部 昭和39年(少イ)1号 判決

被告人 橋本たき江

主文

被告人を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は東京都八王子市横山町八五番地においてカフェー「銀河」を母橋本ふみの名義で経営しているものであるが、法定の除外事由がないのに拘らず昭和三八年九月二五日頃から同年一一月二一日頃までの間児童である○川○子(昭和二三年一一月二五日生満一四年)につき適当な年齢確認の方法を尽さず女給として雇入れ右営業所で使用して酒客の相手をさせもつて満一五歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせたものである。

(証拠の目標)

一、当公判廷における被告人の供述

一、検察官に対する被告人の供述調書

一、当公判廷における証人○川○子の供述

一、○川○子の戸籍謄本

一、司法警察員に対する○川武の供述調書

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人が判示○川○子を使用するに際して同女が一五歳未満であつたことを知らなかつたことについて、何等の過失がなかつたと抗争するので、この点を検討するに、弁護人の縷々陳弁するところは、畢竟○川○子は自筆の履歴書などにおいて自己の年齢は二一歳であると称しているし、且同女の体つき格好、知能などからして、同女が成人であると信じていたものであり、そのことは被告人のみならず、同女の同僚女給、常連顧客筋においても、同様に信じて疑わなかつた点からしても、被告人に過失はなく、更に関係庁の行政通牒、指導などにおいても、必ずしも被使用人の年齢確認のため、殊更戸籍謄本などを取寄せる必要まではないとせられている点から、本件被告人は無罪であると主張するものである。

しかしながら近時児童、少年の身体の発育状況は著しく良好であり、従つて、ややもすればこれら児童、少年の年齢推定に可成りの誤差のあること及び概して水商売に赴こうとする子女は、その方面の知能において、所謂「ませている」といわれていることは、世人の広く経験するところである。而も本件児童である○川○子は、大がらの子女ではなく、学校においても、身長等は中の上位であつて(当人の証言)決して特異に発達成育した子とはみられない点更に、女給応募の女性中には時折年齢を偽る者があることを被告人も承知していたこと(尤も被告人は年以下に詐称するのが普通であると言うが、年以上に詐称する例のあること近くは本件、その他弁護人例挙の裁判例にその例をみる)、などを綜合すれば、被告人が児童である○川○子をその体つきからして、児童の言動を信じて、容易に成人と判断したのは、人を使用する者として軽信のそしりを免れ得ない。又被告人側の言う前示関係官庁の通牒指導も、それは当人が年少者でないことの明確な場合であつて現に本件の如く、被告人の信じた外見上に拘らずなお年少者の場合もあるのであるから、かかる場合をも包含していると考えるのは、被告人に落度がないとは言えない。

それに被告人に期待する年齢確認方法として、例えば戸籍謄抄本、住民登録、異動証明の取寄、一応の保護者に対しての問合せなどの、何れの一をとつても、被告人の一挙手一投足の努力でなしうることである点を勘案すれば、被告人が児童である○川○子を使用するについて注意義務を尽したものとは言えない。

(適条)

児童福祉法第六〇条第二項、第三項、第三四条第一項第五号

刑法第一八条

刑事訴訟法第一八一条

(裁判官 村崎満)

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